今月の特集
 
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社会保険庁の抱える問題と年金制度の危機
2004.12.13
 
「伏魔殿」とまで呼ばれる社会保険庁
 
 厚生労働省の外局である社会保険庁は職員数約1万7000人、全国に地方事務局を置き、公的年金の徴収、給付、運用などの実務業務にあたっている。
 毎月、サラリーマンの給与から払っている(=徴収されている)厚生年金もこの社会保険庁が取り扱う。このほか、自営業者などが払う国民年金などを合わせて、年間20兆円以上のお金が徴収されている。これはもちろん、現在および将来の年金受給者に給付するお金である。つまりは、厚生年金保険料を払うということは、私たちが日頃、真面目に働いて得たお金を社会保険庁に預けているということになる。
 そのお金は、年金給付や年金を払い込んだ人たちの利益のために用いるべきだし、そうなっているのだろう―あまりに当り前のことで、当然そうなっているとほとんどの人がそう考えてきた。ところが、実際には社会保険庁の職員とその周囲の人たちのために巨額のお金が費やされていたことが次々と明らかになっている。一部マスコミなどでは社会保険庁を「伏魔殿」などと呼ぶほどで、実際、問題はかなり根深い。

 
次々出てくる不祥事とムダ遣いの実態
 
 ついに警察の捜査の手が及んだ事件としては、ニチネン企画とカワグチ技研と関連した贈収賄事件がある。両社の社長および収賄側の社会保険庁の元年金保険課長がすでに逮捕されている。ニチネン企画は年金関係のパンフレットの作成、カワグチ技研は保険料未納者宅を回る社会保険庁職員が使う携帯用金銭登録機を社会保険庁から随意契約で受注していた。合計受注額は98〜03年度にかけて約38億円強という多額なもの。ところが、そもそもニチネン企画は社会保険庁元職員の女性が経営、カワグチ技研はその夫が社長を務める会社。納入した携帯用金銭登録機やパンフレットも特別なものではなく随意契約とする理由も見当たらなかったことがマスコミで批判されていた。
 これ以外にも特定業者との関係では、ろくに配布もしていない年金関係のパンフ等を大量に発注するなどの特定の印刷・出版業者への「配慮」、年金関係の書籍を「監修」し、それを関係部局が買い上げた上で出版社側が「監修料」を役所側にバックする「監修料ビジネス」などの問題も指摘されている。
 さらに、サウナやトレーニングルームもあるリゾートホテル風の千葉県にある「研修施設」=社会保険大学校の建設及び維持・運営、その備品のゴルフ用品、職員の健康維持のための施設という都内のテニス場の建設費、社会保険庁長官の交際費(所属する県人会の会費までそこから出していた)、全国に配置された約100台の公用車の購入費、等々ももともと一部は年金(その他は税金)である。
 このほかに巨額のムダ遣いとなったのが、年金福祉施設の建設・運営費用がある。特に全国に13ヵ所ある保養施設=グリーンピアは、そもそも保養地として開発が無理なところに施設を作り、利用者が伸び悩んで多額の赤字を出しつづけた。さすがにグリーンピア事業は廃止されることとなったが、その埋め合わせにも年金の掛け金が利用されている。
 また、グリーンピアをはじめ、年金で作った施設とその運営を委託された財団などの関連団体は社会保険庁・厚生労働省OBの天下り先として活用されているのである。

 
公共サービス機関としての充分な役割を果たしてきたか
 
 広告に起用された女優をはじめ、大臣、野党党首等々、続々国民年金保険料未納が発覚したことは記憶に新しい。お粗末な話だが、3人に1人が保険料を納めていないということは確かに危機的である。
 国民年金だけでなく、厚生年金も空洞化しつつある。つまり、加入を拒否する事業所や、休業を擬装する届出を出す事業所が出始めているのである。しかし、そのような状況に対して社会保険庁では適切な対策をとって来たようには見えない。
 また、複雑でわかりにくい年金の受給等について丁寧に説明し、相談に応じるサービスは充分になされてきたとは言いがたい。社会保険事務所に出向いても長時間待たされる、しかも若い世代の場合は本人が将来の給付額を知りたくても教えてもらえないという状況がある。社会保険庁職員の日常業務自体にも問題が多いと言えるだろう。



 
少子高齢化に対応した年金制度改革は必要
 
 社会保険庁の改革は必要であり、「年金利権」に群がった職員やOB、業者は処罰されなければならない。しかし、ムダ遣いが止まり、公的年金に対する信頼が回復したとしてもやはり将来的に年金財政が厳しくなっていくことも事実である。現在、1人の年金受給者を支える現役世代の人数は4人だが、2050年には1.5人(ただし、厚生年金加入者のみで考えれば1.8人)となるとの推計がある。こうした少子高齢化に対応した抜本的な制度改革は当然必要である。
 また、発足当初の年金制度は、男の世帯主のみが正社員として働きほかの家族を養うことを一般的な姿として想定し、離婚も少ないことを前提としていたが、これは現状に合致しない。働き方の多様化・家族のあり方の変化を受けて年金制度を変えていくことも求められている。

 
 
2004年年金改革の内容
 
 では、2004年に自公政権が押し通した年金改革の内容はどのようなものだろうか。離婚の際に厚生年金の夫婦分割を可能とした(2007年から)ことは、新たな状況に対応したものであろう。しかし、改革の柱の一つは、要するに、「保険料を上げる」というものである。厚生年金保険料は現行の13.9%から毎年上昇し、2017年度には18.3%となる。
 これで、一応の給付水準が維持されるのであればまだしも納得しうるであろうが、「給付水準を下げる」のも改革のポイントの一つである。ちなみに、厚生労働省は、現在の日本の年金給付水準は西欧諸国と比べて遜色がないと宣伝しているが、購買力を考慮に入れた比較や世帯ベースではなく個人ベースでの所得代替率(貰っていた給与と比べた際に年金がどれくらいのパーセントになるか)で見ると、やはり劣っているという推計がある。しかも、西欧諸国もやはり高齢者の比率は高まっていくが、給付水準を維持する努力が続けられようとしている。
 もう一つ、看過できない問題として、2006年度から147兆円と言われる年金積立金の運用を行う独立行政法人を発足させることがある。これによって、年金積立金が株式市場などで自由に用いられ「暴走投資」が行われる危険や、巨額の資金を持つことで金融市場に強い影響力を持つようになることが懸念されている。さらには、社会保険庁・厚生労働省の高級官僚たちの天下り先が増加していく可能性も高い。

 
 
「結局、自分で備えるしかない」ではなしに
 
 こんな状況では、「やっぱり、公的年金は信頼できない」、「では、がんばって老後に備えて貯金するか」という気になるかもしれない。しかし、「貯金のために生活を切り詰める」=「家計から消費にまわる金が減る」→「ますます景気が冷え込む」という悪循環はそれでは断ち切れない。
 必要な行動はやはり、ずる賢い一部の官僚たちが彼らのみにとって都合のよい改革をやろうとしていないか、自分たちが預けている年金の掛け金がどう使われているか、をチェックしていくこと、将来を見通し次世代につけを残さない抜本的な年金改革を求めていくことである。
 連合ではこの間、年金改革に向けた取り組みを強め、
  1. 14年連続の保険料アップと大幅な給付削減を実質的に白紙に戻す、
  2. 基礎年金財源として年金目的間接税を導入、
  3. 税財政を含む年金、医療、介護、福祉各制度の総合的検討
  4. などを目指している。また、小泉首相との会見を受けて設置された社会保障懇談会に笹森会長が参加、労働者を代表して論議を進めている。
 
 
参考文献
 
岩瀬達哉『年金大崩壊』講談社、2003年。
岩瀬達哉『年金の悲劇』講談社、2004年。
保坂展人『年金を問う』岩波ブックレット、2004年。
木村陽子『自分を守るための年金知識』ちくま新書、2003年。
連合ホームページ http://www.jtuc-rengo.or.jp/new/wakaru/kurashi/nenkin/index.html

 
 
筆者プロフィール
 


●外村 大(とのむら だい)
●早稲田大学非常勤講師
●一ツ橋大学非常勤講師

   
 
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